ラフィタは夢を見ていた。
それは、はっきり夢だと認識できるような不思議なものだった。
暗闇の中、大人の握りこぶし程の大きさの光が明滅を繰り返しラフィタへと語りかける。
ラフィタは、その言葉を膝立ちで頭を深々と下げたまま静聴する。
光の言葉が終わるとラフィタは、下げていた頭を上げて真摯な眼差しをもって光を見上げた。
「はい、光の求める通りに致します。全ては光と暗闇の安寧のために」
そう告げるとラフィタは再び深く頭を下げた。
その姿を見届けると光の玉は、闇に溶け込むように消えていった。
ゆっくりと瞼を開き、ラフィタは体を起こした。
カーテンの隙間から赤い月の光が差し込んでくる。
その光の中に照らし出された見慣れた室内で、ラフィタは緊張して強張った気持ちを緩めようとゆっくりと息を吐き出した。
「グロウ様に、先ほどの事をお伝えしないと」
そう呟くとラフィタは、ベッドの脇に置いたサンダルを履くと隣人を起こさないように静かに木製の扉を開いた。
ラフィタが呟いたグロウとは、『光の聖人』という意味を持ち、各地域に点在するそれぞれの教会でもっとも位の高い人物を指す。
その下に『光の聖職者(グロウディリア)』、『光の聖僕(グロウライ)』と続き、そしてどの教会にも所属せず、『光の聖人』より高位となる『光の神子(ライト)』がある。
ラフィタの位は『光の聖職者』だ。
彼のいるこの教会は辺境の村に建てられている。
この小さな村の教会はそれほど大きいものではなく、ラフィタの共同寝所から『光の聖人』のいる寝室までは2分とかからずついてしまう。
ラフィタは『光の聖人』の寝室前にたどり着くと、ゆっくりとその扉を叩いた。
「グロウ様、ラフィタです。至急お伝えしたい儀がございまして参りました」
静かな狭い廊下の中をラフィタの声が浸透する。
少しして、ラフィタの目の前の扉が開かれた。
扉を開けたのは40前後の『光の聖人』としては、まだ若い男性だ。
彼は赤銅色の髪を右肩にゆるくまとめ、白いシーツの様に大きなショールで体を覆い隠している。
髪の色と同じ瞳は優しく穏やかな彼の気質を表し、その中にも『光の聖人』に立つ者としての厳しさも窺い知ることができた。
グロウは、目の前で最敬礼をしているラフィタを見て、少しばかりその赤銅色の瞳を翳らせた。
「私の元にも光の心が伝えられました・・・ラフィタ、とてもつらい旅になるでしょうが、光の意思を世界に広めてください」
「はい、必ず」
ラフィタは、頭をたれたまま意志を告げる。
グロウは、その姿に目を細めて、ラフィタの柔らかな蜂蜜色の髪へと置いた。
「全てを終わらせあなたが帰ってきたら、一緒にお茶でも飲みましょう・・・昔のように」
ラフィタは顔を上げて、まっすぐにその言葉を受け取ると満面の笑みを浮かべた。
「はい!グロウ様」
この夜、ラフィタが初めて見せた、12歳の笑顔だった。
翌朝、ラフィタは『光の聖職者』から『光の神子』となり、小さな辺境の村を後にした。