双子の女の子はそれぞれ、自分たちだけの本を一冊持って生まれてきました。
 一人は真っ白な本を、もう一人は真っ黒な本を。
 双子はその本をそれぞれとても大切にし、いつもそばに本を置いていました。
 食事をする時は自分の膝の上に、寝る時は枕元に・・・常に肌身離さず持っています。
 ある日、双子に両親は聞きました。
「どうしてその本がそんなに大切なの?」
 双子は答えます。
「この本は大きくなったら、私の願いをかなえてくれるの」
 それから、季節が18回めぐった頃、双子はとうとうその本を開けられるようになりました。
 さっそく、黒の本を持った女は本に向かって呼びかけます。
「私のお願い聴いて頂戴」
 黒の本を持った女のその声にこたえるように、黒の本から一人の男が出てきました。
 その男の容姿は美しく、天使のような者でした。
 黒の本から出てきた男はとても優しく微笑んで、黒の本を持った女へ願いを尋ねます。
「あなたの願いを3つだけかなえて差し上げます。さぁ、願い事を言いなさい」
 黒の本を持った女は、その声に笑顔で言いました。
「お金が欲しいわ。好きなものが好きなだけ買えるくらいの
それから権力。誰も私に逆らえないようにして頂戴。
最後の願いは…そうね、この醜い姿をどうにかして頂戴。あなたのように美しくなりたいの」
 黒の本から出てきた男は、黒の本を持った女の願い事をかなえます。
 使った分だけ金貨が増える宝石箱。
 黒の本を持った女に、誰もが傅く鈴のような綺麗な声。
 全ての男性を虜にする麗しい姿。
 黒の本から出てきた男は、その全てを与えた後、黒の本を持った女に微笑みかけます。
「さぁ、あなたの願い事をかなえました。その代償にあなたの命を頂きます」
 黒の本を持った女はその言葉に激昂します。
「そんなこと聞いていないわ、どうしてあなたの願いを私が聞き入れなくてはならないの!?」
 しかし、その黒の本を持った女に黒の本から出てきた男は笑顔のままで言いました。
「確かに、私はこの事を今始めて口にしました。なぜなら、あなたはそのことを聞かずに私に願いごとを言ってきましたから…さぁ、あなたの命を確かに頂戴しましたよ」
 そう言った黒の本から出てきた男の手には、ドクドクと波打つ小さな赤黒い塊。
 黒の本を持った女はそれを見て驚きに眼を見開きます。
「返して! 私の心臓よ!!」
 そう叫ぶ黒の本を持った女の胸から心臓のリズムは聞こえません。
 黒の本から出てきた男は、その言葉を聞き入れず、その赤黒い塊をひと飲みしてしまいました。
 ごくり…と喉をその心臓が通過していくのが見えます。それは蛇が好物の卵を飲み込む姿にそっくりです。
「確かにあなたの命をいただきました。では、私は、これで失礼しますね」
 そういい残して、黒の本から出てきた男は、霞のように消えていなくなりました。
 黒の本を持った女が大事に抱えていた本も煤になって黒の本を持った女の手から零れ落ちていきました。

 さて、こうして黒の本を持った女の心臓は黒の本の住人にとられてしまいましたが、白の本を持った少女はどうなったのでしょうか?

◇◆◇◆◇◆◇◆

 黒の本を持っていた女の隣では、白の本を抱えた女が、白の本から出てきた醜くヨボヨボの老人と対面しています。
 その老人の顔はとても醜くおぞましいものでした。
 体から漂うあらゆる物を腐らせたような腐敗臭。
 白の本を持った女は、その白の本から出てきた老人を大層あわれに思いました。
「おじいちゃん、貴方はまずその体をどうにかしたほうがいいわね。そのままでは、誰ともお話できないでしょう。最初の願いは貴方の体を綺麗にすることにするわ」
 そういって、白の本の女は白の本から出てきた老人へと笑いかけました。
 白の本から出てきた老人はその声に深々と頭をたらしました。
 そして白の本から出てきた老人が下げた頭をあげると、清潔な身なりに変わってしいました。
 顔を背けたくなるほどの腐敗した臭いは無くなり、石鹸のいい香がします。
「これでいいかの?」
 白の本から出てきた老人は掠れた声で白の本の女に問いかけます。
「ええ、これでまともにお話が出来るわ」
 白の本の女は頷きます。
「次は何にする? 隣の姉のように、金か? 権力か? それとも、美貌か?」
 白の本から出てきた老人は再び問いかけます。
 その言葉に白の本の女首を振りました。
「私はこれ以上願い事なんてないわ。今のままで満足しているの。お金だって必要な分だけ働いて貰えればいいし、権力だって私にはいらないわ。大切な人だけそばにいてくれたらそれでいいの…容姿だって、父と母がくれたこの姿で十分満足しているわ」
 と答えました。
 白の本から出てきた老人はその言葉に「そうか」と短く答え
「では、必要になったら呼ぶがいい。お前の願いはあと2つ残っている」
 白の本から出てきた老人はそう言って、白の本の中へと消えていきました。