白い光が目を閉じても眼球を刺激する。
その光に誘われるように瞼を上げれば、銀色の世界が静寂とともに辺りを支配していた。
自分の髪の色と同じだ…と、その雪に包まれた白い世界を見て思う。
「…同じなもんか」
口から出たのは、先ほど浮かんだ思いを否定する言葉。
「何が…同じなもんか」
世界を否定するように、腕を顔の上で交差させる。
簡易的に作られた闇の世界。
今まで自分が住んできた世界。
銀色の世界が遠く離れホッとしている自分を見つけ口元を歪めた。
「こんな綺麗な世界に、オレは、いらない。醜く汚れた存在は…必要ない」
交差していた片腕を腹部に持っていき濡れた衣服を握りしめると、じわりと指の間から服に染みた水分が零れてくる。
目で確認しなくても、それが一体何なのか分かっている。
もう一度濡れた手を目の前に持ってきてその掌を見つめる。
太陽を後ろにして、目の前にある手は真っ赤に染まっていた。
逆光で黒く見える手を握りしめると、その手に留まることが出来なくなった赤い雫がぽたりと右頬を伝い落ちる。
赤い雫が横たわった雪の寝床にじわりと染み込む様子が見なくても想像できて、無性に泣きたくなった。
綺麗だと感じた世界を自分の血が汚していくその嫌悪感に胃が縮こまり、喉を胃液が上がってくる。
「汚したくないのに。止まれ、止まれ…止まれよぉ。」
腹部から未だに溢れ続ける血が下に敷き詰められた雪を汚している事が許せない。
必死で止まるように念じるが、自分の意思に逆らってどんどん赤い液体は地面を染めていく。
「何で…嫌だ…助けて、助けて」
この世界から消えてしまいたい。
綺麗な世界を汚れた緋色に染めたこの血も全てなくして、自分が存在していたことをなかったことにして欲しい。
そうして、綺麗な世界を誰か助けて…自分が唯一大切に思えたこの世界を誰か…。
薄れ行く意識の中で、一心にそのことを願い続けた。
片腕に隠された瞳から零れる雫は光に反射して、宝石のように輝いていた事を深い眠りに落ちた少年は知ることはなかった。